渡せない一室

電話を切ったあとの部屋が、
急にしんとする。
あの静けさを、寂しさと呼ぶ日もあれば、
ほっとする日も、ある。

分かってほしい、と思う。
全部は無理でも、せめて芯のところは。
けれど、どれだけ言葉を尽くした夜も、
最後のひとつは、渡せずに残った。

人はたぶん、そういう間取りに生まれついている。
渡せない一室が、誰の中にもある。

貝は、閉じている時間のほうが長い。
それを不幸と呼ぶ人はいない。
閉じてから、耳は澄んでいく。
遠くで波の崩れる音が、
ひとつずつ、輪郭を持ちはじめる。

誰にも踏まれない場所が、
自分の中に一つある——
それは、欠けていることではなくて、
守られている、ということかもしれない。

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