はじまりに、ひとつの因縁があった。雲から生まれた一滴の雫は、それぞれの渇きをうるおし、それぞれの川をつたって、長い旅をしてきた。
そして、たどり着いた地で出会うのは、すべての境を失くし、ただ一つの大きな水としてうねる、海だ。
別々の形をもち、別々の名を名のり、別々の痛みを抱えて巡ってきた雫たちは、海に落ちたその時、おのれの輪郭を、しずかにほどいていく。どこまでが己で、どこからが他か。そこにはもう、分けるための線も、競うための境も、ない。
すべては、ひとつの大きな現れであり、はじめから、おなじ一つの水であった。
掴もうと握りしめていた力は、ほどけて消え、ただ、すべてを抱いた、深いしずけさと、おだやかな満ち引きだけが、そこにある。
成し遂げる必要も、証して残す必要も、どこにもない。
旅を終えた雫が、しずかに海へ還り、またいつか、ひとしずくとなって、生まれてくるように。
いま、ここに、在る。
